課題があるプロセスを可視化する、トヨタの「自工程完結」とは?

課題があるプロセスを可視化する、トヨタの「自工程完結」とは?
// ライフハッカー[日本版]

日本中の会社でおかしなことが起きていないでしょうか。日本人は働き者だ、とよく言われます。だから、一生懸命に頑張る。ところが、一生懸命に頑張っているのに成果が出ない、という人がたくさんいるのです。(中略)それこそ、モチベーションも上がらないでしょう。頑張っているのに成果が出ない、ということこそ、実はおかしなことだと私は思うのです。(「はじめに」より)


こう問題提起するのは、『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結―――リーダーになる人の仕事の進め方』(佐々木眞一著、ダイヤモンド社)の著者。長くトヨタ自動車に関わってきた、同社の相談役・技監です。

問題は「仕事の進め方」にあるといいます。そこで、いまトヨタでは新しい取り組みを進めているのだそうです。それは、社内で「自工程完結」とよばれている仕組み。果たしてそれはなんなのか? 基本的な考え方を、序章「トヨタが今、全社で取り組みを進めている『自工程完結』という考え方」に確認してみましょう。

職場でよく見る上司の6つの残念顔

たとえば上司が、資料作成を部下に依頼した場合。もちろん部下は一生懸命仕事をしたのだけれど、上司からの評価が得られなかったーー。ビジネスの現場では、そんな上司と部下のすれ違いはあるものです。理由としては、次の6つがあると著者は指摘しています。

1. なんのために資料をまとめるのか、「目的」の共有がない。
2. どんな資料をまとめるのか、「アウトプットイメージ」を共有していない。
3. どうやって資料をつくるのか、具体的な「手順」が共有できていない。
4. それぞれの仕事で、どういう状態であれば大丈夫なのかが共有されていない。
5. 仕事に必要な情報をもれなく把握できていない。
6. 手順やルールには、なぜそうするのか「ワケ」があるのに、勝手に判断してしまう。
(9ページより)


実際にこういうことは、多くのオフィスで起きているはずです。しかし仕事のやりなおし、つくりなおしは生産性を大きく下げ、スピードを阻害し、大きなロスをもたらすことに。しかも社員はやる気を削がれるため、モチベーションは上がらないことになります。

だからこそ、こうした状況を生み出さないために必要なのは、「自分たちは基本的なことができていない」という認識を持っておくこと。そこでトヨタは、仕事の質を向上させるために新たな考え方を取り入れたのだといいます。それが、「自工程完結」。一生懸命やっているのに、結果で文句をいわれてしまう理不尽さが、会社ではあまりに多いもの。つまり、それを起こさせないための取り組みだというわけです。ちなみに海外でも、そのままローマ字で「Ji Kotei-Kanketsu」もしくは略して「JKK」と呼ばれているのだそうです。(2ページより)

科学的に仕事の進め方を捉える手段

人は誰しも、失敗しないように気をつけて仕事に取り組んでいるはず。ところがそれでも、ミスややりなおしの必要性はできてしまうもの。そしてそれは、「やってはいけない」「起こしてはいけない」といった単なる「心がけ」だけではうまくいかないということだといいます。「心がけ」だけではだめで、そもそも仕事の進め方に問題があるというわけです。

そこで重要な意味を持つのが、「心がけ」ではなく、もっと科学的に仕事の進め方を捉える手段としての「自工程完結」。ミスをなくしたり、やりなおしをしなくても済むアプローチをするということです。

自動車産業の競争は熾烈で、日本の現場にあるのは、労務費が世界にくらべて高いという現実。そんななか、どうやって生産性を上げていくかを考えた末、トヨタは有名な「カイゼン」を現場で徹底的に推し進め、省人化や省エネ技術の開発に取り組むなど、生産性向上に挑んできました。「自工程完結」も、そうした生産性向上のための努力のなかで生まれたもの。(11ページより)

カイゼン」との両輪をなすもの。「カイゼン」を定着させるもの

端的にいえば、「心がけ」を「心がけ」で終わらせず、科学的に進めることを考えたのが「自工程完結」。「よい仕事しかできない」「よいものしかつくれない」という条件はなんなのかということを徹底的に、科学的に実現しようとする考え方です。

カイゼン」「QCサークル」「トヨタ生産方式」など、トヨタに世界的に知られるさまざまな用語があることはご存知のとおり。トヨタの品質と生産性をカバーしているのが「トヨタ生産方式」であり、「カイゼン」は、そのなかで行われるエンドレスの活動。「QCサークル」は、「カイゼン」を促進する活動という位置づけです。

そして「自工程完結」は、部分ではなく全体を見て、「よい仕事をするためには、どうすればいいのか」を科学的に洗い出す手段。つまりは、「カイゼン」との両輪をなすもの。「自工程完結」という笠をかぶせたうえで「カイゼン」を行っていくと、「カイゼン」は後戻りすることなく定着していくそうです。(16ページより)

なお「自工程完結」がどのような効果を生むかについては、第1章「トヨタのリーダーたちに求められる新しい仕事の考え方は、いかにして生まれたのか」に記載されています。

ストレスを感じているプロセスを洗い出す

ある大きなミスがあったときのこと。その対策として、問題発生のプロセスを特定し、誰がどのような業務を行い、どのようなチェックが行われ、どこでミスが起きたのかを明らかにしたそうです。ミスが起こったことをきっかけに、この業務を「自工程完結」の考え方を取り入れて見なおしてみたわけです。不安をなくし、自身を持って仕事を進めるためにも、業務を標準化し、カイゼンを進め、仕事の質を高めていくことを考えたということ。

まずはじめたのは「現状把握」。担当者がどんなところにストレスを感じているのかを、個々人がそれぞれの仕事の工程ごとに書き出していき、個々人で次の3点を評価していくことにしたのです。

・目的達成度
・やりにくい作業や面倒な作業はないか
・工程ごとの必要なものは明確か(各手順を実施するために必要なものは明確か)
(25ページより)


これを洗い出した20のプロセスごとに、

◎:まったく問題なし
○:ほぼ問題なし
△:ちょっと不安あり
(25ページより)


の3つで評価していき、課題があるプロセスを可視化したということ。するとその結果としてわかったのは、20の業務プロセスのうち、どこで「やりにくい作業や面倒な作業」があるのか、「工程ごとの必要なものは明確か」ということ。そこで、なぜ「気遣い作業」(やりたくない、面倒くさい、不安などの感情を生む「神経を使うような作業」)になっているのか、要因の解析を行ったといいます。

その結果、担当者がどんな「気遣い作業」をしていたのかが明らかに。そこで精神的負担を解消すべく、「作業手順書(伝承シート)」が整備されることになったのだとか。日々の業務においてはこのシートを確認しながら作業し、なにか気づいたことはメモに残すようにしたわけです。そしてチームで毎週、確認会を実施、情報共有、対応の検討のうえ、「作業手順書」が改定されていくというサイクルが繰り返されているのだそうです。

「◎:まったく問題なし」「○:ほぼ問題なし」「△:ちょっと不安あり」で評価された業務プロセスの多くが改善され、担当者は自信を持って意思決定しながら仕事を進められるようになったといいます。この取り組みのポイントは、コツコツ、じっくり取り組んだこと。それが、担当者に安心感を与えたというわけです。そしてもうひとつのポイントは、それまでなかった前工程とのコミュニケーションが生まれたこと。お互いの業務を知ることで、協力関係外生まれるようになったのです。

入社二年目でこの取り組みを始めてリーダーとなった担当者は、「自工程完結」がうまくいった理由をこう語っていました。歩みを止めないことだ、と。結果が出るまでには、それなりに時間がかかります。走っている最中はつらくなることもある。だからこそ、歩みを止めないことが大切になると思う、と。(31ページより)


そして、それまでは「やらされ仕事で、毎日、自分がなにをしたかもわからない」状態だったという彼は、「自工程完結」が取り入れられてからは、「ここが成長した」と自信を持っていえるようになったと語ってくれたのだとか。(23ページより)

こうして見てみるとたしかに、「自工程完結」には「カイゼン」などに通じる人間くささがあるように思えます。すべてのプロセスに対して地道に対応することが大切だということで、それは多くの企業に応用できることでもあるはずです。